「ねえ、ホタテ取って」




京子に言われ、慎平は、細い腕をホタテに伸ばし、それを京子に渡した。




「どうも~」




京子は、ホタテに醤油を垂らしながら、鼻歌で「オー!リバル」を歌っている。慎平は、肘をついて、奇妙な笑いを浮かべてそれを見ていた。




「にしても、美味しそうに食うな、お前」




慎平は、京子のことを「京子」とは呼べず、かと言って、「お前」と言われたことに何も感じない京子は、ホタテを口いっぱいに頬張りながら、「うんうん」と頷いている。




「で、この後、どこに行くんだ?」




コーヒーゼリーを食べながら尋ねた慎平にまだデザートには手を付けようとしない京子は、かっぱ巻きを箸でチョンチョンと突きながら、「決めてない。ノープラン」と「オー!リバル」のリズムに合わせて言った。




「ノープランか。まあ、それもいいか」




「でしょ? 慎平は行きたいとこないの?」




慎平には、行きたいところはあるにはあったが、そんなことよりも、自分のことを「慎平」と中学の時から変わらない呼び方で呼ばれたことに一瞬驚き、しかし、よくよく考えれば、「幸田君」なんて呼ばれたほうが、おかしいと気づき、「今治を巡りたい」と言った。