綺麗だった。
 腰まで届くであろう黒髪は艶やかに伸び、大きく携わるその眼はその美貌をより一層際立出せ、たれ目がちなそれはどこか穏やかな印象を持たせた。
 これは……。
 と、俺は直感で感じた。
 これ以上深みにはまらないようにと目をそらそうとしてもそらせない。
 どこからか吹く風が彼女の綺麗な黒髪を揺らした。その風は俺の頬をもなでる。まるで目を覚ませと言わんばかりに。しかしこれが冷めることは残念ながら無いようだった。
 彼女を見つめる俺の瞳は今や瞬きすら惜しく見つめ続け、通り過ぎようと歩んでいたその足はもはや動く余地もなかった。