高1の夏休み。


たくさん遊ぶはずだったのに、検査入院が決まって遊べなくなった。



大きな大学病院で毎日色んな検査を受けた結果。



「良性の腫瘍ですね」



結果を聞いた瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。


頭が真っ白になって、イスからずり落ちたあたしを看護師さんが支えてくれた。



うそだ。


ねぇ……誰か。


お願いだから、うそだと言って。



「良性ってことは……治るんですよね?」



涙声のお母さんが先生に詰め寄る。


あたしは震える体で先生の声に耳を傾けた。



「良性の腫瘍は予後がすごくいいんです。転移することもないですし、手術で取り除けば完治します」



完治……。


治るの……?


そうなんだ。


まだ希望はあるってこと?



「ですが、腫瘍がある場所によっては手術が出来ない場合もあるんです。脳幹といって生命維持に関わる部位に腫瘍がある場合や、重要な神経や血管が腫瘍に絡み付いている場合などは後遺症が残るリスクが高いんです」



「そ、そんな。菜花の場合はどうなんですか?」



「菜花さんの場合は側頭葉といって、脳の右側の内側に腫瘍があります。側頭葉は主に記憶や嗅覚や味覚や聴覚といった重要な役割を担う部位なんですが、特に命の危険があるような場所ではないです」



「そ、それじゃあ、手術で完治するということですか?」



「詳しい検査をしてみたのですが、多少はやはり血管や神経を巻き込んでいて。手術が出来ないこともないんですが、それなりのリスクを伴う危険性がないとは言えません」



「そ、そんな」



「個人差はあるんですが、良性の場合は成長スピードがかなり遅いんです。転移しないので、危険な部位にある場合は手術をしないで経過をみるのが一番なんです」



先生が言いたかったことは、つまり症状がなければ放っておいても構わないんだそうだ。