へえ。
矢沢君って、お姉さんがいるんだ。
きっと、綺麗なんだろうなぁ。
「じゃあ、早く届けてあげなきゃね」
きっと、困ってるはずだから。
「ん?ああ、そうだな」
矢沢君は手にしていたロッカーキーを、そっとダウンのポケットに入れた。
「あ、もし良かったら……っ!帰りに2階の談話コーナーに来てくれないかな?」
背を向けて歩き出そうとした矢沢君に震える声で言う。
自分でもなんでこんなお願いをしてしまったのかはナゾ。
……来てくれるわけないよね。
でも、ほんの少しの期待を込めて言ってみた。
「談話コーナー?」
「う、うん……!ちょっと手伝って欲しいことがあって」
なんて。
本当図々しいったらない。
だけど!
ひとりじゃムリなんだもん。
ちょうどいいところで会ったし、ついついお願いしちゃったけど。
ホントはもう少し一緒に居たかったから、こんなことを言ってしまったのかもしれない。
「仕方ねーな、鍵渡したらすぐ行くから」
「本当?ありがとうっ」
嬉しくて思わず頬が緩む。
「あ、ああ。すぐ行く」
矢沢君はそんなあたしを見て気まずそうに視線を泳がせると、プイと顔を背けた。



