だって、キミが好きだから。



恐る恐る振り返ったあたしは、信じられない光景に目を疑った。



え?


な、なんで?


どうして……矢沢君がここに?



「何やってんだ?」



だらしなく制服を着崩したあの矢沢君がここにいる。


落ち着かなそうにオレンジ色の髪をイジっているけど、視線はまっすぐあたしに向けられていた。


オーラがありすぎて引け目を感じるのは、あたしなんかが矢沢君の隣に並んじゃいけないと無意識に思わされてしまったから。


住む世界が違いすぎるよー。



もしかして……矢沢君が手紙の相手?


うそでしょ?


そんなはずないよね?



頭の中がパニくって混乱状態。



目をパチパチさせてポカンとなる。



「聞いてる?」



目を見開くあたしに、矢沢君はクスクス笑いながら手であたしの目の前を仰ぐ。


その顔はとても色っぽくて、笑顔にやられる女子が多い意味を今ここで理解した。



「あ……う、うん!聞こえてる」



うんうんと大きく頷いてみせる。


すると、矢沢君は今度は頬を緩めて柔らかく笑った。


ダ、ダメだよ、その笑顔。


胸がキュンとなってしまう。



「木に手ぇ当てて何やってんだ?」



「へっ……!?あ、こ、これは……!」



桜の木に当てていた手を慌てて引っ込める。



「さ、桜の生命力の強さを感じていたというかなんというか……っ」



真っ赤になりながら声を絞り出す。


とてもじゃないけど、目なんて見て話せない。



「ぷっ。生命力?」



クールで無愛想。


そんなこと、誰が言ったのかな。


目の前でクスクス笑う矢沢君の姿は、ウワサとはかけ離れていた。