落ちてきた天使

「ありがとうございました‼︎またお越し下さい‼︎」



翌日は金曜日。夕方6時を回った。


客はまだ疎らで、部活や塾帰りの学生の姿が目立つ。


金曜日の夜は忙しいって聞いていたから初日がそれに当たるのは不安だったけど、これなら何とか乗り越えられそうだなと、安堵の溜め息を漏らした。



「どう?バイト初日は」



洋平がスープまで空になった丼を下げながら言った。


私もすぐに残りの餃子の皿やコップを下げるのを手伝う。



「楽しいよ。いらっしゃいませって大きな声出すのも気持ち良いし」



バイトは初めてじゃない。
火事に遭うまではレンタルビデオ屋で週3日バイトしていた。


働くのは割と好きな方で、接客は自分に向いてると思ったこともある。


プライベートで人と接しないように心掛けていた分、店員と客という立場でも誰かと会話をするってことが凄く楽しく思えたからだ。



「忙しいのはこれから。余裕ぶっこいてると大変な目に合うぞ」



洋平はニヤリと笑う。


「わかってるよ」と、べぇっと軽く舌を出すと、テーブルを台拭きで拭く洋平の横顔をちらっと見た。



皐月とのこと、洋平は何も聞いてこない。


聞かれる覚悟で来たのになんか拍子抜けかも、なんて思いつつ、聞かれないことに安心してる自分もいる。


皐月とはどういう関係か、と聞かれたら私は何て答えるだろう。


私は行く当てもなく、ただ置いてもらってるだけの居候に過ぎないけれど、皐月は私にプロポーズをしてきた。


それに、私もだんだんと皐月に心を開いてる自覚がある。


大切な人は作らないと決めたのに。


皐月には初めっから調子を狂わされて、いつの間にかいるのが当たり前の存在になってた。



だから正直、今どんな関係か聞かれたら困るんだ。


ただの同居人、だなんて言えないから。