「お、横暴っ‼︎」



激しい動揺を隠すように顔を背けて言うと、「何とでも言え」とまたもや意地悪に笑った。



「でも安心しろ。お前は絶対ノーなんて言わねぇから」



“絶対”


その言葉に反応してピクッと眉が上がった。



「何で絶対なんて言い切れるの」



絶対なんてない。


私は、その言葉がこの世で一番信用出来ない……と思ってたのに。



「決まってんだろ?今に彩の心ごと俺の物になる予定だから」



俺の物にする予定って…ホント皐月って横暴。自分勝手だ。


私の意見なんて全く無視。



だけど、そんな俺様な言葉でもその端々から、私のことをちゃんと想ってくれてるってことがわかる。


皐月の言動、その瞳から、凄く凄く伝わってくる。



だから皐月のいう“絶対”を信じてみたいなんて、思ってしまった。





時刻は夜9時を過ぎた。


皐月の突然のプロポーズで部屋の空気が甘ったるくなって流されそうになった時、私の場違いで空気が読めない腹の虫がぐぅーっと鳴った。


咄嗟にお腹に手を当てても、もう遅い。


バッチリと皐月の耳にもその大きな音は届いたようで。


皐月は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で数回ぱちくりと瞬きすると、ぷっ、と吹き出すように笑った。



ああもう!皐月に笑われちゃったじゃん。
学校帰りにラーメン食べたはずなのに私のお腹はどうなってんのよっ!


恥ずかしくて赤くなった顔を隠すように俯くと、皐月は私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。



「悪い、飯まだだったな」



笑いすぎて目尻に滲んだ涙を人差し指で拭う皐月。


きゅんと胸が震えた。


なに、今の笑顔……反則過ぎるでしょ……



「どうすっかな」



鼓動が頭の中で響き身動き出来ずにいると、皐月がキッチンに行って冷蔵庫を物色し始めた。


私もすぐに何とか気を取り直して後をついて行く。



「今日は何作ろうとしてたの?」

「豚の角煮。でも今から作ったら遅くなるから無理だな」



今日仕事帰りに買ってきたのか、冷蔵庫には豚バラ肉のブロック、カウンターの上には大根と葱、生姜がレジ袋に入ったまま置かれている。


いつもはこんな風にキッチンに置いたままにしないですぐに片付けるのに。


私がいないことに気付いてすぐに探しに出てくれた証拠だ。



「ごめんね…?」



それに皐月は、毎日手の凝ったご飯を作ってくれる。


どれも美味しくて、見栄えも綺麗で。
いつの間にか、それが毎日の楽しみになってるのは言うまでもないけど。


こうやって今日も仕事で疲れてるはずなのに、献立を考えて買い物して来てくれた。


それを私は無駄にしてしまって…凄く申し訳ない気持ちになる。



だけど、皐月はシュンと肩を落とす私の肩に手を置くと、ふんわりと微笑んだ。