小憎たらしい、嫌な言い方だ。


ここまで言いたくないのに、皮肉が口から突いて出る。


声もどんどん大きくなって、ヒートアップする自分を止められない。



「私はただ、此処に置いてもらうなら少しでも皐月の負担にならないようにしたいの!自分のことは自分で出来るし、皐月に少しは楽してもらいたい!」

「おい。落ち着けって」

「落ち着いてなんていられない!もう限界なの
!」

「限界?」

「こんな生活、苦しいだけ……窮屈なのよ…」



シンと静まり返る。


皐月は暫く私を見つめると、落ち着いた声色で話し始めた。



「俺は別に負担になんて思ってない。その逆だ。彩はいてくれるだけでいい」

「何それ…」

「俺の前では無理してほしくない。普通の高校生が感じる普通の幸せを彩にも感じてほしいんだ」

「普通?」



皐月の言葉に、胸がギュッと詰まる。


そんな風に思っていてくれてたなんて知らなかったから。



私はいつも求めてた。


普通でいることをーーー。




でも、それとこれとはやっぱり別だよ。


だって、皐月は……私の本当の家族じゃない。
赤の他人だもん。


普通の家族みたいに、お父さんが家族のために働いて、お母さんが家事をしてくれるっていう生活を、皐月とは送れない。



「そんなの無理だよ」

「無理じゃない」

「無理なのっ‼︎皐月は私の本当の家族じゃないもん‼︎‼︎」



私の叫びが部屋に響く。


目を見開いた皐月は、すぐに眉を顰め口を噤んだ。



「あっ……」



ハッとした。


今のは言っちゃいけなかった。


皐月は私の幸せを考えてくれていたのに、私はそれを踏みにじるようなことを……



「ごめん…」



声が掠れる。
皐月の悲しそうな顔が目に焼き付いて、私も口を噤んだ。


沈黙が流れる。
コチコチ、と時を刻む時計。
それを凄く長い間聞いていた気がした。



「なら、家族になればいいだろ」

「え?」



ボソッと呟くように言った皐月。


あまりにも予想外な言葉に、耳を疑って聞き返した。



「本当の家族になればいい」



皐月は何を言ってるの?


頭が軽くパニックを起こしてて、上手く言葉の意味を理解出来ない。



「結婚しよう、彩」