落ちてきた天使

「ん」とだけ言った皐月は、私の髪を優しく撫でる。


心地良い。
頭を撫でられるのはいつ振りだろう。


施設に入る前、お婆ちゃんがしてくれたのが最後かもしれない。



家族を亡くして酷く塞ぎ込んでいた幼かった私は、暫くの間なかなか寝付けなかったり怖い夢を見て夜中泣いたりすることがよくあった。


その時、お婆ちゃんはいつも優しい笑顔で頭を撫でてくれた。


“大丈夫よ。彩は一人じゃないわ”


“お婆ちゃんは彩のこと大好きよ”


そう言いながら、皺くちゃな手で私が寝付くまで、ずっと。




もっと撫でてとねだるように、私は皐月の胸元に頬を寄せる。


皐月の少し速い鼓動を聞きながら、その心地良い安心感に身を委ねた。





「で?」



お互いの鼓動が正常運転になった頃、皐月の声が頭上から聞こえて顔を上げた。



「で?って?」



あれ?さっきまでの優しさ満天の皐月はどちらへ?


明らかに作り笑顔だ。
絵に描いたようなニコちゃん顔の皐月。


嫌な予感しかしない。


咄嗟に離れようとしても、ガッチリとホールドされて逃げることは不可能。


背筋にヒヤリと嫌な汗が流れた。



「きっちり説明してもらおうか、彩ちゃん」



声も顔も全てがご機嫌に見えるけど違う。


やっぱり怒ってた……それも史上最高に。



皐月がちゃん付けだなんて、怖いにも程がある。



「え、えっとぉ…」



頬がピクピクと引き攣る。


えへ、と精一杯笑顔を作る。


何とかこの場を切り抜ける方法を頭で考えるけど、未だ崩れない皐月の負の笑顔を目の前にして為す術なんてあるわけがなく。



「ハイ…」



私はガクッと肩を落とした。