落ちてきた天使

「とにかく話は家で聞く」



いつになく低い声。


「帰るぞ」と、皐月は私の腕を強引に引っ張る。


「ちょっと…痛いってば」と、その手を振り払おうとしたけど、更にグッと握る力を強められた。



「え?帰るって、どういうこと?」



私と皐月が一緒に暮らしてるのを知らない洋平は困惑した表情を見せ、私達を交互に見る。



当然の反応だ。


まさか、洋平が皐月のことを“兄ちゃん”って呼ぶほどの関係だったとは思わなかったけど。



「二人ってそういう関係?」

「あのね、」



変な誤解をされる前にちゃんと説明しておいた方がいい。


そう思って、皐月に引き摺られながらも洋平を振り返って言うと、突然皐月が足を止めた。



「洋平。そういう事だから、コイツ連れて帰るわ」

「皐月!そういう事って…違うじゃん!ただ、」

「違わねぇだろ」



私の言葉を遮って、皐月は鋭い眼光で私を見据えてくる。


その言わば威圧的な瞳に、ゴクリと唾を飲んだ。



「お前も気を付けて帰れよ」

「洋平、今日はありがとう。また明日ね」



皐月の長いコンパスに私がついて行けるわけもなく、駆け足になりながらも後ろを振り向いて手を振る。



洋平は呆気に取られて苦笑いを浮かべながら、「また明日な」とひらひら手を振り返してくれた。





「ねぇ、皐月!速いってば。もう少しゆっくり歩いてよ」



皐月は速度を緩めることなく、私を見ることもなく、只管マンションに向かって歩き続ける。


一歩後ろを必死に追う状況の私は、すでに息が上がり額や首に薄っすら汗が滲むほどだ。



どんなに訴えても皐月は止まってくれない。


そこまで運動が得意ではなく、体力だって平均以下の私に、ずっと駆け足というのは正直かなり辛いものがある。