「おはよう…」



キッチンにいる皐月に声を掛けると、皐月はすぐに振り向いて眩しい笑顔を浮かべた。



「おはよう。よく眠れたか?」

「…う、うん」



何だかそわそわする。

皐月の目を直視出来ない。


ただでさえ、昨日の件で恥ずかしくて顔を合わせづらいのに、初めて見る仕事スタイルの皐月に凄いドキドキしてる。


昨日、皐月があんなこと言ってからかわなければ、こんな風にどうしていいかわからなくなることもなかったはず。

これも全部、皐月のせいだっ!


触れられてビリリと痛む頬。

熱い声と吐息。

真っ直ぐな瞳。

頭がクラクラするほど甘い言葉。


情熱的な夕日で真っ赤に染まる昨日の皐月は、この世で一番美しく気高い獣のようだった。

昨日の言葉は意地悪だとわかっていても、胸の高鳴りはそう簡単に収まってはくれない。



皐月は落ち着かない私のことなんて気にも留めず、「そっか」と満足気に微笑むと私を座るよう促した。


すでにテーブルには程よい焼き色の食パンと目玉焼き、ウィンナー、ヨーグルトが並べられている。


朝食らしい朝食に心からホッとしつつ椅子に座った。



「似合ってんじゃん、それ。可愛い」



皐月が私に珈琲カップを渡しながら、さらりと言って微笑む。



「…ありがと」



出たっ……皐月の得意な不意打ち!


こうやって面と向かって言われると照れる。


カァッと頬が一瞬で熱くなり、それを隠すようにやや俯き気味に食パンを手に取って齧った。



昨日といい今日といい……なんで何でもないようにこんな恥ずかしいことが言えるの。


皐月はこういうことを言い慣れているんだろうか。


それとも大人の余裕ってやつ?


パンを齧りながら盗み見してみるも、皐月の表情から照れや恥じらいは全く感じられなかった。



「やっぱ貰ってきて正解だったな」



そう言って一人納得してる皐月に、またしても「うん…」と頷くしか出来ない私。


私だけ朝からこんなドキドキさせられて、ちょっと悔しい……