でも、10年前皐月は何て言ったんだろう。
そこだけはどんなに思い出そうとしても思い出せない。


すると、皐月は私の考えを察したように答えた。



「笑えって言ったんだ」

「笑え?」

「最後にお前の本当の笑顔が見たかった」



目を閉じる。


昨日思い出した記憶と今思い出した記憶をパズルのように当て嵌めていくと、学ランの男の子の顔がハッキリと頭の中に浮かんだ。


今目の前にいる皐月よりあどけない。
だけど同一人物だってことぐらいわかる。



「そっか……皐月がずっと守ってくれてたんだね」



やっとわかった。
皐月がどうして私にここまで良くしてくれるのか。


私を妹のように思ってくれていたからだ。



「それは違うな」

「え?」

「俺は守りきれなかった。現にお前も俺の事を覚えてないだろ?施設にいた頃が幸せな日々だったなら俺の事覚えててもおかしくないのに」



何も言えなかった。
施設にいた時、幸せだったかどうか聞かれたら、幸せだったと答えることは出来ない。


親がいない。親戚もいない。


周りからは腫れもののように扱われ、意地悪な男子に親がいないことで虐められたこともある。


ずっと孤独感、喪失感、寂寥感が頭の中を占めていて、楽しい、嬉しいなんて心の底から思った事なんてないと思う。



「だから、俺は今度こそお前を守ると決めた」



凛とした声に顔を上げる。
皐月の真摯な眼差しが私の胸を射た。



「前は妹として見てたが、今はあの頃とは違う」