落ちてきた天使

これまではお父さんの話をすると苦しそうな顔をしていた皐月が、今はどこかつかえが取れたようなスッキリした表情をしてる。


生まれたその日からずっと離れて暮らしていたお父さんと、すぐに関係が修復出来るわけがない。

焦らなくてもいい。
ゆっくりとこれから親子の関係を築き上げていけばいいと思う。

まだ二人には沢山時間があるんだから。



「彩のお陰だ」

「え……?」

「こんな風に前向きに思えたのは、お前が俺の隣りにいてくれるからだ」

「私は何も、っ」



否定的な言葉の前に、皐月の骨張った手が私の口を塞いだ。



「俺はいつも彩に助けられてる。今日も、横領の濡れ衣をかけられた時も、三橋との婚約話が出た時も……母さんが死んで施設に入所した時も」



皐月は私の口元から手を離す。
そして、憂いを帯びた表情で遠い空を見つめた。



「彩と出会わなければ、俺はつまらない人生を送ってたと思う。父親を憎み、荒れて、間違った道に進んで……今の俺はここにはいない」



当時を思い出してたんだろう。
ふっ、と笑うと、私を再び見据えた。



「施設で無理して笑ってた小さいお前が木の上で一人で泣いてるのを見た時、何故かわかんないけど俺がこいつを守らなきゃって思った。あの日から、彩が俺の生き甲斐だったんだ。だから、俺は曲がらずここまでこれた。あの時は確かに恋じゃなかったけど」



皐月はそこで言葉を止めると、私を慈しむような眼差しで見つめ、両頬をやんわりと包み込んだ。


目が離せない…
離したくない……

私も濡れた瞳で、皐月の表情を一つも逃さないように見つめ返した。



「今は10歳も離れたお前にめちゃくちゃ惚れてる」



掠れた声で紡がれた告白は、私の胸を熱くさせた。