落ちてきた天使

「母さんが、自分から……?」



自分が聞いていた話とは全く違う初めて聞く話に、髪をクシャッと乱してショックを隠しきれない様子の皐月。

無理もないと思う。
私だって動揺してる。



「あなたのお母さんはお父さんを本当に愛してたわ。それ以上に皐月君。あなたのことを大事に。一番に愛してた」



皐月のお母さんの愛が沁みる。
辛くてもキツくても、愛する人から離れてでも、愛する我が子のために全てを捨て、全てを注いだお母さん。

皐月が誰よりも優しくて愛溢れた人なのは、お母さんの深い愛情を受けて育ったからだ。

お母さんの血を受け継いでるからだ。



「だから、お父さんのことも許し、」



施設長が言い終える前に、お父さんが施設長の肩に手を置いた。



「それでも、私が母さんと別の女性と結婚した事実に変わりはない」

「黒田さん……」

「もちろん必死に探して、見つけるのにそう時間は掛からなかった。妊娠してることも、その時初めて知った。そして、母さんの決意も。それを知った上で、私は身を引こうと思った。陰ながら応援していく、そう決めたんだ。だけどね」



お父さんはそこで言葉を止めると、空を見上げた。

遠くを見つめる瞳が揺らいだのは気のせいなんかじゃないと思う。



「私は怖かったんだ。追いかけて拒まれることが。自分が頼りなかったから、この世で誰よりも愛する女に辛い選択をさせてしまった。こんな未熟な自分が、この先家に逆らって彼女と子供を幸せに出来るのか。それを考えた時、私には自信がなかった。結局、私は母さんの決意を尊重するって言い訳をつけて逃げたんだ」



ふっと嘲笑すると、お父さんは皐月を濡れた瞳で見据える。そして。



「すまなかった。私が不甲斐ないばっかりに、母さんにもお前にも辛い思いをさせてしまった」



この通りだ、とお父さんは頭を下げた。

切なくて、胸が詰まる謝罪だった。


きっと、ずっと後悔して生きてきたんだ。
だから、だから……