落ちてきた天使

「そうだよ、あんたは母さんを捨てたんだ。母さんは捨てられた後、俺を妊娠してることに気付いて一人で産んで育ててくれた。確かにあんたは血の繋がった実の父親かもしれない。だけど、俺はあんたを父親だとは認めない」

「皐月君、それは違うのよ」



ずっと黙って聞いていた施設長が悲しげに首を振りながら言った。



「あなたのお母さんは、自らお父さんの元を離れたの」

「えっ……」

「愛する男性と愛する我が子を守るために、一人で家を出たのよ」

「……何だよ、それ……」



意味がわからない。
そう言わんばかりに目を右往左往させる皐月に、施設長は更に続けた。



「あなたのお母さんと私は同級生だったの。黒田さんとの話もよく聞いてたわ。二人は相思相愛だった。だけど、どんなに二人が愛し合ってても、周りからの圧力がお母さんを苦しめた」



一般人と国会議員の恋。
私には何が駄目なのかわからないけど、そう思わない人もいる。

それが、お父さんが産まれた家柄なんだ。



「愛してるだけじゃ駄目なのかなってよく言ってた。あの人の未来のために別れた方がいいのはわかってるけど、心が追いつかないって。そんな時、あなたを身ごもったの。妊娠したことが黒田家にバレたらきっと堕ろさせられる。でも、愛する人との間に出来たお腹の子は絶対に産みたい。だから、お母さんは妊娠したことがバレる前に、お父さんの元から離れたのよ。お父さんにはもちろん、自分の家族にさえも妊娠したことや居場所、全てを黙ったままお母さんは消えたの」



皐月のお母さんはどんなに辛かっただろう。

私も大好きな人の元を離れた。
だから、お母さんの気持ちが痛いほどよく分かる。

お母さんは私以上に苦しかったはずだ。
勇気もいたはず。

親も捨て、友達も捨て。
この先一人でお腹の中の子供を育てていかなきゃいけない。

私には計り知れない程の苦しみと、勇気、強い心が必要だったはずだから。