落ちてきた天使

「彩さんさえ良かったら一緒に話を聞いてほしい。どうやら息子がだいぶお世話になってるようだから」

「あ、えっと…」



ど、どうしよう……
まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。

突然の彼氏のお父さんとの対面。
心の準備もしてないのに、ましてやこんな大物のお父さんだなんて。



「こ、こちらこそ、お世話になっておりますっ」



あたふたしながらも何とかペコっと頭を下げる。

あとは何を言えばいい…?
とにかく名前!あとあと、皐月さんとお付き合いさせて頂いております?ん?あれ?今のは日本語おかしい?


頭の中が真っ白になって「えっと、えっと」を繰り返していると。


「ははは」



お父さんが目を細めて笑った。



「そんな緊張しなくていい。私は今、国会議員としてここにいるわけじゃない。皐月の父親としてここにいるんだ」

「俺はあんたを父親だと思ったことはない」



皐月が間髪入れずに言うと、お父さんは顔色ひとつ変えずに皐月に目を向けた。



「お前がなんと言おうと、私がお前の父親だ」

「っ、何を今更」



皐月はふいっと視線を逸らす。

その横顔は苦痛で歪んでいるように見えた。



「皐月」

「気安く名前を呼ぶなよ!」



皐月が弾けるように叫んだ。
しんっと静まり返り、地鎮祭の準備をしていた養護施設の職員や建設会社の面々が何事かと視線を送ってくる。

それでも、お父さんを見つめる皐月の冷たい瞳は変わらない。



「お前が私を恨むのは当然だ。母さんとお腹の中にいたお前を、私は捨てたんだから」



“捨てた”。

たった三文字の言葉が、鋭い刃となって胸を貫く。

これ以上皐月を傷付けないでほしい。
そう思うのに、お父さんの声色からは皐月を傷付けようとする悪意なんて感じられず、私はお父さんの言葉の続きを待った。