落ちてきた天使

あの時、私が出てけば、少なくとも私のことで悩む必要がなくなって皐月の身も少しは軽くなる。

私がいなくなることでほんの少しでも希望が生まれるのなら、私はどうなっても構わない。


……そう言えば聞こえはいいけど、現に私は自分のことしか考えてなかった。



「違います。あれは……私は逃げたんです」



施設長にそんなことを言ってもらえるようなことはしてない。

あの頃の私は全て保身だった。



「高校生だったんだもの。弱くて当然よ」



施設長は隣りに立つ私の肩にポンっと手を置いた。



「あの時、彩ちゃんがいなくなってやっと、私も皐月君も目が覚めたの。覚悟を決めたのよ。ごめんなさい。あなたに辛い決意をさせてしまったこと、本当に申し訳なかったと思ってる」

「施設長……」

「改めて。戻ってきてくれてありがとう、彩ちゃん」



お礼を言わなきゃいけないのは私の方だ。
どれほど施設長に助けられ、守られてきたのか、どれだけ言葉にしたって伝えきれないと思う。

ただただ、施設長の気持ちが胸に沁みて言葉が詰まった。





「今日はね、ゲストをお呼びしてるの」



気を取り直すようにパンッと手を叩いた施設長が、さっきまで職員と話していた皐月と私に言った。



「ゲスト?」

「ええ、もうすぐお見えになるはず……あっ、いらっしゃったわ」



施設長が視線を門の方へ移した時、ちょうど敷地内に入ってきた一台の黒塗りの高級車。

助手席から降りてきた秘書のような男性が後部座席のドアを開けると。



「っっ、なんで……」



車から降りてきた威厳ある男性の姿に、皐月が大袈裟に息を飲んだ。



「皐月?」



異常なほど動揺してる……

喉を上下させ、みるみるうちに険しくなる表情。血管がくっきりと浮き出るぐらい強く拳を握り、身体を震わせる皐月に、私の心臓がドクンと重く震えた。