少し寄り道して行こうかな。
マスクもしてるし、少しぐらいなら大丈夫だろう。

私はすぐ近くにある小学校を目指した。



「懐かしいな……」



私が少しの間通った小学校。
幼稚園の頃、ママと手を繋いでこの校舎を見ながら“早く小学生になりたいな”って言っていたのを覚えてる。

普通なら幼稚園の頃の記憶なんてないんだろうけど、私には数少ない大好きな家族との思い出だから覚えてることも多い。


そして、この道を曲がると見えてくるのは、パパが建てた昔の家。



「……が、ない」



一年5ヶ月前までは確かにあった昔の我が家が、今は建て直されて全く別の姿形になっていた。


そっか……
もう、ないんだ……


ここは私の家じゃないけど、無くなるとやっぱり寂しい。


一年5ヶ月しか経ってないのに、変わるところはガラッと変わる。

それは街並みや物、そして人も同じだ。



向きを変えて、ふと顔を上げる。



「あ……」



目に入ったのは、米粒くらいの大きさだけどここからでもはっきりと見える高台の芝生公園の木。


行きたい……
久しぶりにあの木に登って空を見たい。

あの木から眺める景色、空はきっとずっと変わらないはずだから。


危険なのはわかってる。

でも、足が勝手に公園の方へ向かって歩き出した。




「わぁ…!綺麗……」



女将さんに少しだけ遅くなると連絡を済ませて、私は芝生公園の木に登った。


私の定位置に座って、ぐーっと背伸びをする。


気持ちいい。
ここに来ると、それまでうじうじ悩んでたのがスッキリした気分になる。


透き通った空を鳥が自由に飛び回り、雲が風に乗って流れる。

風はまだ冷たい。だけど、電車を降りてからドキドキしっぱなしの私の肌には心地良かった。

沈みかけた太陽が少しずつ茜色に染まり始めると、私が一番大好きな景色に変わる。


そして、思い出すのは今でも大好きで大好きで仕方ない皐月のこと。



「何してるのかな……」



元気かな。風邪ひいてないかな。
ちゃんと食べて、ちゃんと寝て、無理してないかな。



「すぐ無理しそうだしな」



皐月は頑張り屋さんだから、疲れてても絶対に言わないしそんな素振りも見せない。

本当は、もっとそういう弱い所も見せて欲しかったって思う。