落ちてきた天使

「バーカ。ガキ相手にそんなことするわけねぇだろ。まさか本気にした?」



すっかりいつもの調子に戻った松永皐月は意地悪くニヤリと笑った。


やられたっ……!



「本気にするわけなーー、ぐわっ‼︎」



図星をつかれてカッと体温が上がった私が食って掛かると、それを遮るように顔面にバスタオルを押し付けられた。


暗くなった視界からそれを急いで取ると、すでにドアの取っ手に手を掛けた松永皐月が私を一瞥した。



「風邪引く。ちゃんと乾かせよ」



指をさしてそう言った男は、何事もなかったかのようにドアを開けて出て行った。


ほんの一瞬、柔らかな笑顔を残してーーー。




嵐が去った静けさのように、シンと静まり返る脱衣所。


濡れた髪の毛からポタポタと雫が垂れる。



「何なのよ…アイツ」



心臓がうるさい。
胸が苦しくて息が詰まりそうだ。


激しく繰り返す鼓動は頭の奥まで響いて、堪らずに両耳を手で抑えた。


ここに来てからの松永皐月の態度があまりにも意外過ぎて、頭が追いつかない。


ちゃんと乾かせよ、と言ったあの声はやけに優しかった。


笑顔も初めて見た。


アイツ……あんな風に笑うんだ。


いつもの人を小馬鹿にしたような感じじゃなくて、上手く言えないけど、何だか人の温かみみたいな物を感じた。



卑怯だっ。
こんな不意打ち……


あんな言い方されたら怒るに怒れないじゃない。



私は得体の知れないドキドキをかき消すように、バスタオルで思いっきり強く髪の毛を拭いた。