「彩ちゃん?」



ちょうど校門を出た所で声を掛けられ、足を止めた。

聞き覚えのある声に、心臓が飛び出そうなぐらい跳ね上がる。


何で…どうして……佳奈恵さんがここに…?


嫌な予感しかなかった。
振り返るのも怖い。

マンションに乗り込んできた時の佳奈恵さんの姿が脳裏をよぎる。


隣りを歩いていた洋平が、今目の前にいる人がバザーの時に皐月と歩いてた人だって気付いたんだろう。

「あ……」と息を飲んだのがわかった。



「あの…彩ちゃん、よね?皐月の……」



返事をするどころか振り返りもしない立ち止まったままの私の前に、佳奈恵さんが顔を覗き込むように回り込んできた。

視界に佳奈恵さんの姿が入った途端、体が反射的に強張るも、それに反して佳奈恵さんの表情が柔らかくて眉間の力がスーッと抜けた。

バザーの時みたいに高圧的でもなく、乗り込んできた時みたいに取り乱した感じでもない。

大人しく穏やかな雰囲気を纏っていて、まだ三回しか会ったことないし、佳奈恵さんがどんな人かもよくわかってないけど、多分今目の前にいる佳奈恵さんが本来の佳奈恵さんなんだろうなって思った。



「ごめんなさい……突然こんなところまで来ちゃって」

「い、いえ……」

「彩ちゃんに謝りたくて」



佳奈恵さんは手に持っていた鞄をギュッと握ると、ゆっくりと頭を下げた。



「これまでのことごめんなさい。失礼なことばかりして、本当に……本当にごめんなさい」

「佳奈恵さん…」

「皐月は私になんて興味ないのわかってたの。でも、それでも彼が好きだった。私と同じく家柄や親のことで苦労してきた彼が私の拠り所だった」