「何ぼけっとしてんだ」



天下一のバイト中、珍しく空いていたので洋平と二人で休憩を取っていると、そう言いながら結構強めに頭を叩かれた。



「痛っ…」

「あ、悪い。クリーンヒットしちまった」



言葉とは裏腹に、全然悪びれた様子のない洋平。

だけど、今はそれを突っ込むほど、私の気持ちに余裕はない。



「何だよ、らしくない。何かあったなら話してみれば?」

「……皐月がね、おかしいの」

「皐月兄ちゃんが?」



皐月が泥酔して帰ってきてから数日が経った。

あの日以来、飲んで来ることはなかったけど、仕事が立て込んでるのか帰りは遅い。

それに、明らかに元気がないように見える。
いつも何か考えてて、話し掛けても聞いてない。


私を避けてるわけじゃないけど、当然会話が減った。



「ふーん…皐月兄ちゃんが泥酔ねぇ…」

「何かあったなら言ってほしいのに。私ってそんなに頼りないのかな」



何も言ってくれない皐月に、正直少し自信を無くした。

私は何でも言ってる。隠し事はない。
ずっと一緒にいたい相手だからこそ何でも話してるし、これからもそうしようと思ってる。

だけど、皐月は違うのかな。
10歳も年下の私には、子供過ぎて何でも話す気にならないのかな……



「そんなうじうじ考えてるんなら聞けばいいだろう。彩は一回でも聞いたのか?」

「…ううん。なんか、聞きづらくて」

「聞き辛いって……少なくとも、皐月兄ちゃんは彩のこと頼りないから話さないとは思ってないと思う。他に話しづらい理由があるんじゃないか?」



話しづらい理由、か……

それがいつも考えてることなんだろうか。
あの皐月があそこまで考える何かって、かなり大きな事が私の知らない所で起こってる気がしてならない。