だけど、料理が完成しても、お風呂に入ってる間も、皐月が好きなバラエティー番組を見終わっても玄関が開くことはなかった。

連絡しても返事が返って来ない。
既読にすらならない。

こんなこと、今まで一度もなかった。
どんなに忙しくても連絡はくれてた。

だからこそ心配になる。
事故にでも合ったんじゃないかとか、事件に巻き込まれてるんじゃないかとか。

そう考えると、心臓が不穏な音を鳴らし始めた。

私の運命……考えたくないのに悪い方に考えてしまう。



時刻はもうそろそろ日にちを跨ごうとしている。

もし、日にちが変わっても返って来なかったら探しに行こう。終電がまだあるから、駅まで迎えに行って待ってれば良い。

ここで不安になりながら待ってるよりマシだ。


今日はバタバタしてて昼ご飯を食べ損ねたからお腹が空いてるはずなのに、空腹感なんて忘れてしまった。

ただ鳴らないスマホをジッと見つめ、すぐに出迎えられるように玄関の方に耳を集中させていた。その時。


ガチャガチャッと、雑に鍵を開ける音が聞こえて、飛ぶように玄関に走った。



「皐月っ‼︎‼︎」



開いたドアから千鳥足で入ってくると、皐月は靴も脱がず倒れるようにその場に座り込んだ。



「どうしたの⁈大丈夫⁈」

「っ…あ〜っ、あや…?」



酷く泥酔した様子だ。
酒臭い。ワイシャツははだけ、緩めたネクタイも曲がりに曲がっている。

こんな風に酔った皐月を見たのは初めてだ。
皐月は酒に酔って自分を見失うのは嫌なタイプで、外で飲むときはセーブして飲んでるって言ってた。

なのに、こんなデロデロになるまで飲んで来るなんて、絶対に何かあったんだ。



「お水持って来るね」



待ってて、と一旦立ち上がろうとする。

だけど、すぐにその手を掴まれた。



「あや…行かないで」

「でも、」

「いいから、ここにいて」



酔ってるにしても、どこか弱々しい声。

無事に帰ってきてホッとするはずなのに、さっきよりも不安になるのは何でだろう……



「なぁ…あや」



とろんとした赤い目で私をおもむろに見つめる皐月。

そして、小さく開いた口から出た言葉は、私の不安を見事に的中した。



「このまま二人でどこか遠い所に行こうか」