「施設長!」



救急車の中で治療を受けていた施設長に会いに行くと、施設長は酸素マスクをしながらも私に手を振ってくれた。



「良かった……」



その姿を見た途端、腰が抜けて施設長が横たわるストレッチャーの脇にへなへなと座り込んだ。


施設長の腕や足には包帯が巻かれ、額にはガーゼ、口元には酸素マスク。点滴が繋がれ、傍から見るとかなりの重症に見える。

だけど、長い時間火事の中にいたにも関わらず、煙もそこまで吸い込んではいないようで、数日の入院で済むと派遣されてきた医師に聞いた。

それでも、実際元気な姿を見るまで不安は拭えなくて、今こうして本人の顔を見てようやく安心する事が出来た。



「本当……皆が無事で…良かった」



ななちゃんは私が駆け付けた時にはもう救急車の中で寝息を立てて眠っていたので、少し顔を見させてもらった後すぐに病院に搬送された。

皐月曰く、皐月がおんぶした途端、安心したのか意識を無くすように眠ったとか。

火傷は軽く済み、他に目立った外傷もなく、施設長と同じく数日で退院出来るだろうとの事だった。



安心して涙が無抵抗に出てくる。

怖かった。凄く、凄く、怖くて不安だった。
施設長は私のお母さん兼おばあちゃんのような存在で、大切な家族だから。

失いたくない。もう二度と。
そう思うと、堪らなく怖かった。


「ぅ…」と嗚咽が漏れる。
その時、私の頭に弱々しくも温かい手がぽんっと降りた。



「心配掛けて…ごめんね」



施設長の弱々しい声。
胸が詰まって声にならなかった。

何も答えられない代わりに、私は何度も首を振った。



「彩ちゃん……子供達の支えになってくれてありがとう」



またもやぶんぶんと首を振る。

私なんて何も出来なかった。
ただそこで燃え上がる炎を震えながら眺めるしか出来ない無力な私。

お礼を言われるようなこと、何もしてない。


施設長はゆっくりと酸素マスクを外すと、



「あなたは私の自慢の娘よ」



そう言って、ふわりと笑った。
それはとびきり優しくて、愛らしい表情だった。