落ちてきた天使

はぁ、と息を吐き、後ろから私の首元に顔を埋める皐月。


炎の中に入っていた時間は恐らく十分も経たないぐらいなのに、何日も何日も離れていたみたいに懐かしく感じた。


腰に回る腕をギュッと握る。


皐月だ……


私が妄想して作り上げた幻なんかじゃない。

この細いくせに筋肉が程よくついた腕。
耳元に当たる吐息。
頬を擽る髪の毛。

本物の皐月だ。
確かに皐月がここにいる。


じわじわと愛おしさが込み上げてくる。
同時に鼻がツンとして、一気に視界が滲んだ。


皐月の顔が見たい。
いっぱい触って、いっぱい抱き締めてもらいたい。

もっとちゃんと皐月を確かめたい。



皐月の腕の中で向きを変える。

最初に目に入った服の胸元部分は黒く汚れてしまっている。そこからゆっくりと視線を上げて汗ばんだ首、喉仏を通り過ぎると、顎、口元、そして汗を拭いた時に天辺が汚れてしまった鼻。

ドキドキ胸を高鳴らせながら、鼻筋を昇って、優しい目元が見え………っ!



「このっ馬鹿‼︎‼︎‼︎」



見えると思っていたものじゃないもの。
鬼の形相のような恐ろしい目元が見えた瞬間、首を竦めてしまうぐらいの怒声が降ってきて、思わず目をぎゅっと瞑った。


怒ってる……こんな怒った顔も、こんな風に怒鳴られたことも初めてで、瞑った目を開けられない。



「何してんだよ!危ないだろうが!こんなところでっ……」



くっ、と言葉を飲み込んだようにそれ以上何も言わない皐月に恐る恐る瞼を上げていくと、今度は今にも泣いてしまいそうなぐらい目尻を下げた皐月の顔が目に入った。



「……一瞬、心臓止まった」

「え…?」

「お前目掛けて建物が崩れたとき……」



あ……そうだ。
メキメキ音がして、見上げたら何かが落ちて来たんだ。


すぐにさっき私が立ち尽くしていた場所に目を移す。



「う、そ……」



心臓が恐怖で震え上がった。

例えるなら、畳二畳分ぐらいの大きさの瓦礫。
そんな大きくて硬くて重いものが、さっきまで私がいた場所に落ちて無惨にも割れていた。