『風呂入ってくれば?』



玄関を入ってすぐいなくなったかと思えば、松永皐月はそう言って私に何かを投げてきた。


広げると、黒のTシャツ。
160㎝もない私が着たらワンピースになってしまいそうなぐらい大きい。



『廊下出て右のドア』



私と顔を合わせようとしない。
それだけ言って、またリビングを出て行ってしまった。



ここで突っ立ってても仕方ない。
とりあえず、お言葉に甘えてお風呂に入ろう。


熱いお湯を頭から浴びてスッキリしたい。
瓦礫をどかして自分の荷物を掘り起こしたからかなり汗をかいた。


化粧なんてボロボロに取れて悲惨な状態だろう。


言われた通り、廊下に出て右のドアを開けると、これまた綺麗に整理された洗面所が現れた。


洗濯機の上には白いバスタオルが一枚畳んで置いてある。


多分、私のために用意してくれたんだと思う。



あの人、意地悪なのか親切なのかわからない。


馬鹿にされたと思ったら、こんな風に見ず知らずの私を助けてくれて。


一体、どれが本当のアイツなんだろう。



熱いシャワーを思いっきり頭から浴びる。
気持ちいい。疲れて荒んだ心まで綺麗に流してくれるようだ。


置いてある洗剤は全部男性用だ。


こういうのって少しドキドキする。
彼氏と同じ香りって、女子はみんな憧れると思う。……って、アイツは彼氏でも何でもないけど。