「俺が行く……って……、まさか」



施設から目を逸らさない皐月。
その横顔に、その言葉の意味を悟った。


全身からサーッと血の気が引いて、頭が真っ白になった。


あの日のお父さんとお母さんの最後の姿が、皐月に被る。



「俺が施設長を助けに行く」

「駄目!そんなの絶対駄目だよ!」



行かせないと言わんばかりに皐月の両腕を掴んで、思いっきり首を振った。



「レスキュー隊に任せればいいじゃん…皐月が行くことない…」

「レスキューでも今は火が激しくて入らない所があるらしい。だから、施設長は子供達を助けに戻ったんだ。命よりも大事な子供を救うために」

「で、でもっ」

「俺が行かなきゃ。俺はあいつらの兄貴だから」

「嫌だ……嫌だよっ……皐月までいなくなっちゃったら私、どうしたらーー」

「彩っ‼︎」

「っっ」



皐月は私の言葉を遮って声を上げた。

その表情には恐怖や不安なんてものは微塵もなくて、ただただ凛々しく逞しく、毅然としていた。



「さつき……」



もう私が何を言っても駄目だって思った。
それぐらい皐月が覚悟を決めてることを、その強い瞳から気付いてしまったから。


それでも行って欲しくない……
もう二度と大切な人を失いたくないのに……


私は今の皐月に“行かないで”なんて言えなかった。




「彩、よく聞いて」

「ゔ……っ…」



涙でうまく返事が出来ない。
けど、その分震える唇をきつく噛み締めて皐月を見つめた。



「前に言ったろ?俺はいなくならない。もう、不幸が繰り返されることもないって」



覚えてる。鮮明に。忘れるわけない。


『お前は俺の隣りで一生愛されてればいいんだよ』


それは極上の愛の告白だった。



「もう一度言う。俺は死なない。お前を残して俺はいなくならない。お前の不幸はもう二度と繰り返されない」



手では拭いきれない程の涙が次から次へとあふれ落ちる。

皐月の顔がボヤけて見えるけど、それでも皐月から目を逸らさなかった。