「見守ってて下さい。お願いします」



背筋を伸ばして、頭を下げる。

私なりのけじめ。決意表明。
そして、感謝と敬愛の気持ちを込めた一礼だった。


私が大学進学を決めたのは洋平の話を聞いたからだけど、皐月という支えてくれる存在がいるから一歩踏み出せた。

失敗しそうになったり間違えそうになっても、皐月なら絶対導いてくれる。

皐月を信頼してるから、私は前に進めるんだ。



皐月は何も言わない。
私の決断を喜んでくれるとばかり思ってたけど。

頭を下げたままの私からは皐月がどんな顔をしてるのか見えなくて、もしかしたら…と少し不安になる。

嫌な緊張で心臓が騒がしくなり始めた時。



「くっ…」



頭上から堪え切れないと言わんばかりの笑い声が降ってきた。

まさか笑われるとは予想もしていなくて恐る恐る皐月を見上げると、皐月が口元を隠しながら肩を揺らしていた。



「皐月…?」

「悪い……なんか、これが父親の気持ちなのかなって」

「父親?」



皐月の言ってることがさっぱりわからなくて首を傾げると、皐月が目を細めた。



「娘がどんどん大きくなっていくのが嬉しいような寂しいような複雑な心境で見守ってる父親の気持ち」



娘を見守る父親の気持ちって、私は皐月の娘なんかじゃないのに。

でも、それぐらい保護者としても私の心配をしてくれてたんだなって思うと嬉しくて、ふふふと笑みが漏れた。



「何それ……変なの」

「うっせーよ」



言葉は乱暴なのに、優しくて愛を感じる。

初めて会った時はなんて口が悪い人だろうって思ったのにな。

今はそんな風には一ミリも思わない。
なんでそう思ったのか不思議なくらいだ。



「よく決断したな」

「皐月がいたからだよ」

「俺は何もしてない。彩が自分で出した答えだろ」

「確かに進路のことは自分で決めようと思ったよ。何から何まで皐月に頼りっぱなしだったから自分の進路ぐらい自分で考えないとって」



施設長の言う通り、皐月に相談すれば私にとって一番いい道に導いてくれてたと思う。

でも、いつまでも負んぶに抱っこじゃ駄目。


自分で何でも出来る芯の通った強い大人になりたい。

皐月の隣りが似合う女性になりたいんだ。