何かが壊れる時ってほんの一瞬の出来事だ。

足音も立てず、前触れもなく。
当然、ドラマのように予告なんてない。

ただ気付かぬうちにその時が……
運命が一刻一刻と近付いてくる。


いつ起こるか、何が起きるか。


ーーーーそれは、神のみぞ知ること。






「……ヘ…っ、グシュン!」



九月に入った途端、夜風が急に冷たくなった。

さすがに夜に何十分も薄着のままいるのは寒すぎて、可愛らしくもない中年男性のようなくしゃみをすると、皐月が着ていたジャケットを肩に掛けてくれた。



「え…いいよ!皐月が風邪引いちゃう」

「馬鹿。俺はいい」

「でも」

「デモもクソもない。彩は黙って俺に甘やかされとけばいいんだよ」



ふっと笑う皐月。
きゅんっと胸が締め付けられて、堪らずに掛けてもらったジャケットを強く握った。




「あのね、皐月に聞いてもらいたいことがあるの」



足を止め、数歩先を歩く皐月の背中に話かける。


佳奈恵さんのことで頭の中から抜け落ちちゃってたけど、今日皐月に会ったらいち早く伝えたかった進路の話。

皐月は口には出さないけど、ずっと心配してくれてたから早く報告して安心させたかった。


悪い報告じゃないのに少しドキドキする。

皐月はゆっくりと振り返ると、きょとんとした顔で「ん?」と返事をした。



「私ね……私みたいに親がいない子供達が笑顔になれるように……生まれてきて良かったって思えるように、少しでも力になりたいの」

「うん」

「だから、大学に進学することにした。今から本格的に勉強しても間に合わないかもしれないけど、バイトの日数減らして勉強する。皐月には迷惑掛けちゃうかもしれないけど……」



そこで止めると、真っ直ぐに皐月を見つめた。

穏やかで優しい表情の皐月。
どんなに拙い言葉でも、目を逸らさずに最後まで待っていてくれてる。

そんな皐月だから、私は信頼してる。
そんな皐月だから、大好きなんだ。