「だせぇな、俺。好きな女を泣かせた挙句、謝らせちまうなんて」

「皐月……」

「お前の事になると感情がコントロール出来なくなる」



憂いを帯びた声に心臓が跳ねた。
嬉しくて口元が緩む。



「同じだ」

「え……」

「私も…皐月の事になるとコントロール出来なくなる」



さっきだって佳奈恵さんのことで嫉妬して変なこと口走った。

言うつもりなんてなかったのに、自分を止められなかった。


でも、不思議。
自分の中にある嫉妬心は醜く思えて皐月には絶対に知られたくないのに、皐月が嫉妬してくれてるのは凄く嬉しい。

愛されてるなって思う。



「違う女性を名前で呼んだり、擦れ違う人が皐月を振り返るだけでもヤキモチ妬いちゃう。それぐらい好きなの、皐月のこと」



みるみると目を見開いて、皐月の口から「彩」と私の名前が溢れる。


パパとママが彩りある素敵な人生を送れるようにと付けてくれた名前。

大好きな名前を大好きな人に呼ばれる幸せを身に染みて実感する。



「私何言っちゃってんだろ……恥ずかっ、きゃっ!」



照れを隠すように前髪を大雑把に梳きながら言うと、全てを言い終える前に皐月が私を抱き寄せた。


皐月の心臓……凄く凄くドキドキしてる……

いつもより速くて、力強い心音がとても愛おしいと思う。



「彩…早く大人になって」

「皐月……」

「俺、もう我慢の限界。卒業式の日、お前のこと貰うから」



胸が苦しいぐらいに跳ね上がる。

私はもう子供じゃない。
皐月が言いたいことわかる。


今まで皐月が私の気持ちを待ってくれてることも気付いてた。

やっぱりそういう行為は未知の世界だし、初めては痛いって聞くから正直怖い。

でも、皐月なら構わない。

私の全てを皐月にあげる。
初めても最後も、全部皐月がいい……



「ん……約束、ね…」



緊張して声が掠れた。

私、皐月と付き合い始めてから凄く大胆になったかも……



けど、皐月はどんな私でも愛してくれるから。
どんな私も皐月には見せていこうと思う。

そう思える相手だから。






雲が陰っていた心はすっかりと晴れ、神々しい月が顔を覗かせる。


もう大丈夫。

そう思ってたのに…



私達を照らす夜空に浮かぶ本物のそれは、まだ光を失ったままーーー……