昔から木に登るのが好きだった。


季節は青々とした葉がつく夏。


時刻は夕方。そう、地平線に太陽が沈みかける頃がいい。


場所は私が生まれた町の高台にある芝生公園。


遊具はなく、中央には両腕を精一杯回しても届かないぐらい大きな木が一本立っているだけ。


いつ行っても静かで、一人になりたい時には絶好の場所だ。



その木を高い所まで登り太い枝の根元に座ると、まずは目を瞑って耳を澄ます。


爽やかな夏の香りを乗せたそよ風が髪を揺らし、葉っぱ同士が擦れる音が耳に心地いい。



そして、ゆっくりと深呼吸をして新鮮な空気を身体に取り込むと、瞼をそっと開いて空を見上げる。


私の真上に広がるのは、太陽が沈むにつれて少しずつ濃く深みを増した瑠璃色の空だ。


そこから地平線に近い西の空に視線を移すと、日中とはがらっと姿を変えた燃えるような茜色の空がある。



夕暮れは毎日訪れるけど、毎回違う顔を見せる。


雲の形、色の濃さ。温度や湿度。
一つ何かが違うだけで、全く別物に生まれ変わる。


二度同じ空は見れない。永遠に。


だから尊く、こんなにも魅力的なんだと思う。



視線を空から戻すと、綺麗な街並みが眼下見える。


色とりどりの屋根。

沢山の車が忙しなく走る県道。

子供達が笑いながら歩く住宅街。


街全体が夕日で紅く染まり、その景色を見ていると心がスゥーッと和らいでいく感じがした。



私はこの木で過ごす時間が大好きだったーーー。