「父親は国会議員なんだ。多分、名前を言えば誰でも一度は聞いたことがあると思う」

「国会…ぎ、いん……」



あのマンションを買い与えるぐらいだし、お金持ちなのかもとはほんの少し考えたけど、まさかそこまで凄い人だとは思わなかった。

でも、じゃあなんで皐月は施設にいたんだろう。


初めて聞く皐月の生い立ちに、心臓が慌ただしくなり始めた。



「名前は…ごめん。言いたくない。教えるのが嫌なんじゃなくて、あいつの名前を言うのすら虫酸が走るんだ」



実の息子に名前を言うだけでも虫酸が走ると言われるなんて、なんて悲しい親子関係なんだろうか。

血が繋がった家族。
その存在は私にとってはとても大切で、希望で、尊いものなのに。



「悪い……でも、親がいても幸せじゃない奴も世の中にはいるんだ」



皐月は私の表情から気持ちを読み取ったのか自嘲気味に言った。



「俺はあいつにとっていらない人間だった」

「何、それ……」



息子をいらないだなんて思う父親はいない。
それとも、そう思うのは偽善なの?



「俺は愛人の子供。不倫相手との間に隠し子がいたなんてことが世間にバレてみろ。イメージダウンもいいとこだろ。つまり、俺はあいつからしたら不都合な存在なんだよ」



憎しみ、怒り、それから寂しさ。
そんな感情が入り混じったような皐月の声に、私はもはや言葉を失った。

まだ話の序盤なのに、皐月が深く傷付いてるってことが痛いほど伝わってくる。



「あいつと母さんは幼馴染だった。代々国会議員の家系で育ったあいつと向かいの家に住む中流家系の母さん。二人は当たり前のように惹かれあい、結婚の約束をした。だけど、それを祖父や親戚達は許さなかった。父親は大手企業の社長令嬢と結婚させられた。それでも最初は反発してたらしいけど、父親も所詮男。身体は女を求め、間も無く二人の間には娘が生まれた」



皐月は吐息を震わせながらさっきよりも怒りに満ちた声で更に続けた。