「重い話してごめん…」



皐月は優し過ぎるから、きっと自分のことのように傷付いて辛くなるってわかってた。


なのに、こんな重い過去の話をして、自分だけ荷物を下ろそうだなんて身勝手にも程があったかもしれない。


だけど、皐月は謝る私の肩を掴んで上を向かせると、潤んだ瞳で言った。



「なんで謝んの?俺は話してくれて嬉しかったと思ってるけど」

「でもーーー、ふがっ…ひょっと!」



皐月が私の鼻を摘んだせいで、変な声が漏れた。それをぷっと吹き出して笑う皐月は「変な顔」と目を細めた。



「でももくそもない。もうお前は一人で悲しむな」

「皐月……」

「泣く時は俺の腕の中だけにしろ。これ、命令だから」



命令って……

そんな命令されても、全然嫌悪感が湧かない。


むしろ擽ったい気持ちになるなのは、皐月の言葉には強引な意味合いなんてなく、優しさとこの身を全て預けてもいいって思うぐらいの逞しさを感じたからだ。



「もし、破ったら……?」

「お前をずっと離さない。誰の目にも触れないように、俺以外の男がお前の涙を見れないように閉じ込める」



精悍な表情の皐月が、私を真っ直ぐに見つめてくる。

息をするのも忘れてしまいそうになるほどの強い眼差しと皐月の覚悟に、私はやっと体も心も軽くなった気がした。




「な、に…それ」



やっとの事で絞り出した声は震えていた。



そんなの罰にもならないよ……

だって私、そうやって言われて凄く嬉しいと思ってる。


私にとって、今の皐月の言葉はどんな言葉よりも最高の愛の告白に聞こえたから。






夏。

大好きな彼氏と、初めての花火デート。


過去の“不幸”という名の荷物を降ろした日。



私は一生、今日のことは忘れない。