落ちてきた天使

人の波が改札口から押し寄せる。


今日はいつもより降りる人が多い。
浴衣の人は浮き立ち、仕事帰りの人は人混みを鬱陶しそうな表情をしながら縫うように抜けて来る。



「もうすぐかな」



駅前広場にある時計を見ると、待ち合わせ時間を2分過ぎたところだった。


花火大会は19時から。
広場で待ち合わせしていた人達は、徐々に合流していなくなる。


私も今か今かと皐月が来るのを待った。



初めてのデート。初めての待ち合わせ。


同じ家で暮らしているんだから家で待っていれば良かったんだろうけど、浴衣の着付けの時間もあったし、“彼氏と待ち合わせ”というリア充体験をしてみたくて駅前で待ち合わせすることにした。


それにしても、好きな人がいるって本当に凄い。


彼氏を待ってるこの時間も幸せだなんて、私の人生がまるで変わったかのようだ。


幸か不幸か、自分の気持ち次第っていうのは案外本当のことなのかもしれない。



「あ!皐月!」



家の方向からその姿が見えて、パァッと花が咲いたように顔が緩ぶ。


思わず手を振って名前を呼ぶと、皐月は笑顔を返してくれた。



「悪い。待たせたな」

「ううん。全然平気」



あれ?何だろう。
皐月を直視できないというか、やけに緊張するのは。


同じ屋根の下で暮らして毎日のように会ってるのに、いつもとは違うシチュエーションのせいか何だか照れ臭い。


皐月も普段より数倍格好良く見える。



「それ」



ほけっと皐月に見惚れていると、皐月の声にハッと我に返って「へっ⁈」と素っ頓狂な声が漏れた。



「浴衣。似合ってる……すげぇ可愛い」



そう言って、頬を赤く染めながら難しい顔をする皐月にとくんと胸が跳ねた。


カァッと全身に熱が帯びる。


今の…ズルい……
そんな顔しながらそんなこと言うなんて本当に反則だよ……