「だせぇな、俺」



そう言って、皐月は苦笑しながら髪をガシガシと掻いた。


私より10も年上で完璧な彼が可愛く思えて仕方がない。


一分前よりも、この瞬間も。
何倍も皐月のことを好きになってる。


愛に飢えていた心や身体に温かい何かがじわじわと広がっていって、これが“幸せ”なんだって思った。



「本当はお前の前では格好つけて大人の余裕見せたかったんだけどな」

「私は嬉しいよ。余裕がない姿見ると、愛されてるなって実感出来るから」



余裕がないってことは、それぐらい皐月を私でいっぱいに出来てるってことで。


他のことは考えられなくなるぐらい、私の事を好きでいてくれてるってことでしょう?



皐月は一瞬目を見張った。
そして、すぐにふっと頬を緩めると、まだ靴を脱いでない私の手を握って「降参」と諦めたように言った。



「当分はくっついては寝れないけど、今日から手繋いで寝るか」

「いいの……?」

「当たり前だろ。俺も触れてたいっていう気持ちは同じだし……何とか我慢するよ」






その日、私達は皐月のベッドに入ると手を繋いだ。


二人が寝るには少し小さいセミダブルの端と端。


「おやすみ」と皐月が言う。
「おやすみ」と返すと、皐月が繋いだ手をギュッと握り直した。


静かな時間が流れる。
カーテンの隙間から微かに漏れる月の光が目を瞑った皐月の顔を照らした。


トクトクと鼓動が走る。
気持ちが昂りすぎて、今日は眠れないかもしれない。


皐月が少し動くだけで心臓が一々跳ね上がる。
触れてるのは手だけのはずなのに皐月と一緒に入った布団の中は温かくて、抱き締められてるような感じがして落ち着かない。