一向に靴を脱ごうとしない私を、「彩?」と怪訝な表情で振り返る皐月。


私って面倒な女だ。
こんなんじゃ皐月に愛想尽かされるのも時間の問題かもしれない。


そう思うのに、面倒臭い思考はすぐには収まってくれない。



「寂しい……」

「え?」

「離さないで。今日だけでいいから、ずっと皐月にくっついていたい」



心の声が無意識に口を突いて出て咄嗟に口元を手で塞いだ。

赤くなった顔を隠すように視線を逸らす。

こんなことをまさか自分が口にするとは思ってもみなかった。


でも、これが私の今の気持ちだから……
皐月には知ってほしい。



皐月もこんなこと言う私に驚いてるんだと思う。


すぐに返事が返って来なくて、我儘言い過ぎたかもと後悔し始めた時。


「無理」と、低い声が耳に届いた。


否定的な言葉なのに、胸の奥が甘く疼く。
激しい情欲に必死で抗うような声に、皐月の誠実な一面を感じたからだ。



「これ以上彩の近くにいると、自分を止められる自信ない」

「それでもいいって言ったら……?」

「駄目だ。俺は彩を大切にしたい。自分の欲求のために簡単に抱きたくない」



さっき自分に言い聞かせてたのも、これ以上勘弁してって言った意味もようやくわかった。


皐月の温もりが離れていって心寂しくなってたのに、今は皐月の誠実さが凄く嬉しい。