「ーーーっ、さ……つきっ……」

「黙って」



逃げても追い掛けてくる熱い唇。


皐月の声もいつもより余裕がないように聞こえるのは気のせいだろうか。



上唇のあと下唇を啄まられて、最後にしっとりとしたリップ音が鳴ると、名残惜しそうに皐月は離れていった。



「も……、なんで今っ、キス……」



息が絶え絶えになりながら、今度は腰が抜けないように皐月の服をギュッと掴む。


今の話の流れで、どうしてキスに至るのっ……


呼吸をする間もないぐらいの強引なキス。
嫌じゃないけど、もう少し初心者向けにしてほしいというか手加減してほしい。



「俺を煽った罰」

「あ、煽ってなんてっ……!」



まだ鼻先が触れそうなぐらい近くにある皐月の端正な顔と熱を含み獣のように光る瞳、キスで濡れた艶やかな唇に目を奪われて、思わず反論しようとして出た言葉を飲み込んだ。


煽ってるのはどっちよ……
皐月の方が色気出しすぎ。心臓に悪い。



せめてもの反抗心でムッと眉を寄せて皐月を見つめると、額をペシッと叩かれた。



「馬鹿。これ以上は勘弁して、マジで」



皐月は困ったように苦笑すると、私の腰を抱いていた手を解いた。



「とりあえず上がろう」



そういえばここは玄関だったんだ、と思いつつ離れた温もりが寂しくて一歩も動けない。


離さないでほしい。
そんな困った顔して笑わないでほしい。


ちょっと離れただけなのに。


初心者向けに手加減してほしいって思っておきながら離れたら寂しいだなんて、我が儘もいいとこだと思う。