「それにしても、彩ちゃんったら皐月君と暮らし始めてから一度も顔見せに来てくれないんだもの。寂しかったわ」



あ……そういえばそうだ。
私、バタバタし過ぎてアパートの床抜け事件以来一度もここに来てない。


皐月の家で暫くお世話になるってことは電話で連絡したけど、こんなに心配掛けてる施設長に顔を見せに来ないなんてあるまじき事だ。



「すみません。私ったら、施設長にこんなにお世話になってるのに」



施設長は私の目の前まで来ると、俯く私の両肩に手を置いた。



「彩ちゃんは私の子供みたいなものなんだから、たまには遊びに来てね」

「はい」



おばあちゃんのような優しい笑顔に胸がほっこりする。



私、この町に戻って来てよかった。


一人で生きていかなきゃいけないって覚悟して来たけど、やっぱり一人じゃ何も出来ない。


一人でやってる気でいても、どこかで誰かに助けられてる。


皐月がいて、施設長がいて、洋平がいて。
ラーメン天下一のおやっさんと女将さんがいるから、今私はこうして元気でやってけてる。


床抜け事件の時、施設長がいなかったら私は一人であの突然起きたトラブルに対応出来なかった。そもそも、施設長がいなかったら私はこの町には戻ってきてないと思うし。


洋平やおやっさん、女将さんがいなかったら、今もバイトを見つけられずにいたかもしれない。


皐月がいなかったら、私はこうして笑っていられなかった。今も毎日泣いて苦しんでいたかもしれないんだ。