「へぇ、君が噂の彩ちゃんかぁ」



濃い眉毛。切れ長二重の目。黒い肌。
彫りが深く、声も大きい。


全体的に濃いイメージの初対面の男性を目の前に、私、矢嶋彩は絶賛引き気味中。



「は、初めまして。矢嶋です」



今、絶対顔が引きつってる……
愛想笑いもいいとこだ。


引きつった顔の皺が瞬間接着剤でピキピキに固まってしまったかのようで、全く元の顔に戻らない。


席に着くなり、ニヤニヤしながら私を凝視してくるこの男性は中垣晃さん。


私が引いてるのにも気付かない。
それどころか、「緊張してる?安心して、取って食ったりしないから」と豪快に笑った。


別に緊張してるわけじゃないし、取って食われたらどうしようって不安になってるわけじゃないんだけど……


あはは、と空笑いをして隣りに座る皐月に視線を送ると、皐月は呆れ顔でため息混じりに言った。



「晃、うっさい。彩が引いてる」



うわ、皐月……
今のはダイレクトに言い過ぎじゃない?


まだファーストドリンクさえも頼んでない。
始まったばっかの席で気まずくなるのだけは本当勘弁してほしい。


「ちょっと!」とドギマギしながら皐月の腕を叩く。


だけど、心配しただけ無駄だった。



「そんな敬遠しなくたって友達の女取らねぇよ」



中垣さんに気にした様子はなく、皐月の私が引いてる発言は冗談だと思っているみたいだ。