「お前歩くの遅過ぎ」



洋平の背中が小さくなった頃、皐月の声が聞こえた。


振り返ると、右手を腰に当てて息を整えながら私の方へ歩いてくるところで、その姿を見ると胸が震えた。


また走ってきてくれたんだ。


電話の向こうでは怒ってる感じがしたのに、今目の前にいる皐月は案の定優しく、何処かホッとしたような表情をしている。



「真っ直ぐ帰って来いって言ったろ?まだこんな所にいるってトロ過ぎ」



そういえば洋平と話してたから、電話を切ってから全然歩いてない。


今なんて洋平の姿をぼけーっとずっと眺めちゃってたし。



「ごめん」

「別に、無事ならいいけど」



皐月はぶっきら棒に言って目を逸らす。


やっぱり心配してくれていたんだ。
天邪鬼な皐月が可愛く思えて、胸がくすぐったくなった。



「ほら、帰るぞ」



バイトのエプロンやら学校の体操着が入ったトートバッグを私から奪うと、皐月は私の手を繋いで歩き始めた。



「え…?皐月⁈」

「何だよ」



振り返らず、一歩前を行きながら答える皐月。



「何って…手……」



どうして手を繋ぐの?


そう聞きたいのに、突然訪れた緊張と戸惑いで言葉が詰まった。



「お前、遅いから」

「へ?」

「俺が捕まえてないと、迷子になりそうだし」



ま、迷子?そんなのなるわけないじゃない!


ドキドキから一転、ムッと頬を膨らませる。


一言言ってやろうと皐月を追い越した時、私は目を見開いた。