落ちてきた天使

ホント、一生の不覚だ。
なんであんな所で足を滑らせたんだ私っ‼︎


私は今、数分前の注意力散漫な自分が憎い。



「では、私は急ぎますのでこれで」



一応、ペコッと頭を下げて歩き出す。


「おいっ‼︎ちょっと待てよ」と私を止める声が聞こえるけど、完全に無視。


誰が待つものか。


心機一転、今日は新たな生活のスタートだというのに初っ端から最悪な出だしになってしまった。



男性への苛々をドスンドスンと地面にぶつけながら今日から暮らす予定のアパートに向けて歩いていると、鞄の中から着信音が聞こえた。


荒々しくスマホを手に取り表示された着信相手を確認すると、さっきまでの苛立ちが嘘のようにピタリと足が止まる。


まさか……ね。


嫌な予感がする。
じわりと手に汗が滲む中、私は通話ボタンを押した。



【あ‼︎矢嶋さんですか⁉︎河野不動産ですけど】



開口一番、不動産屋の酷く慌てた様子に、私の緊張と不安は頂点に達した。


もう何度も何度も不幸な目に遭ってきた私は、不穏な空気を察知するのは誰よりも長けている。


そして、その察知能力が高いことは過去の様々な出来事が証明済みだ。


だから今回も恐らく……



【矢嶋さんが入居予定のアパートがーーー、】