幽霊の君と

部屋に入って、とりあえず口実にまで使ったんだしと上着をとってきてそいつに手渡してから、はたと気づく。


そうだった。


こいつには物は触れられないんだっけか……。


どうしようかと、俺が上着を持ったまま思い悩んでいると、察したそいつがそっと手を伸ばし、


上着を、掴んだ。


「ぁ、お、前……?」


「僕……自分のこともよく分かってないですけど……、僕、自分から触ろうと思って触れるものには触れるみたいです」


ほら、とそいつは手を伸ばして俺の腕にそっと手を添えた。


先程とは違い、俺の腕には確かに温もりがある。


「ね」


そいつは、小さく微笑んだ。