幽霊の君と

「……」


そいつの腕をつかもうとした俺の手は、するりと、空気を掴んだ。


「ぁ……」


そいつは、泣きそうな顔で自分の腕を自分の腕で抱き込むと、ゆっくりと元の場所に後ずさりした。


「僕……は、その……」


かたかたと、先程はなかった身体の震え。


それは、寒さからの震えではないのだろう。


その身体はもはや、この世のものではない―――、


「幽霊、みたい、なんです……」




そいつは決して、俺の眼を見ようとはしなかった。


「あの、ごめんなさい僕……消えますね、不快な気持ちにしてしまってすみませんでした」


そのまま、さっきのように通りすぎようとしたのだろう、そいつに向かって、俺は仕事で出す、腹からの大声を張り上げた。


「待て!!」