北条夏希と初めて話したあの日から一週間が経った。
北条夏希はあれから一度も登校していない。
顔はずっと前から認識していたが、彼女がどんな性格で誰と親しいのか・・・。
私は彼女のことを何も知らない。
初めて話したあの日。
受けた印象は、特に問題も無さそうな健全な出で立ち。
「おい」
また突然声をかけられる。
デジャヴに少し期待したが、明らかに男の声だったから萎えた。
声の主は早川功弥(こうや)。
功弥とは一年、二年と同じクラスで、今年も同じクラスになった。
「お前可哀想だな。隣がずっと休みで」
功弥が北条夏希の机に視線を落とした。
「別に・・・どうでもいいよ」
どうでもいい。
この一週間、何故か私は北条夏希の事ばかり考えている。
何故学校に来ないのだろうという疑問はあった。
それ以前に頭の中を無限ループしているのは、あの日の北条夏希の笑顔や声。
まだ友達と呼べるほどの会話もしてない彼女が何故こんなに気になるのか分からない。
私は寂しいのだろうか。
功弥がハッと何かを思い出したように私に視線を移す。
「・・・俺、二年の時、北条夏希の噂聞いたことあるんだけどさ」
「・・・噂?」
功弥が周りに聞こえない位のボリュームで私に耳打ちする。
「あいつ、売春してるらしいよ」
「・・・は?」
もちろん売春の意味は分かる。
しかし北条夏希と売春のイメージが全く結びつかない。
「誰から聞いたの?」
「野球部の奴らから聞いた。誰にも言うなよ」
周りで誰も聞いていないことを素早く確認するや否や、功弥がもう一度私の耳元に近づく。
「おっさんとホテルに入っていくの何度も目撃されてるらしい。・・・しかも毎回違うおっさん」
信憑性に欠けるが、信じられないわけでも無かった。
北条夏希は美人だ。
美人がみんな売春する訳じゃないが、美人の使い道を間違えてしまう人も中には沢山いる。
「ふぅん・・・。ま、どうでもいいけど」
私の味気ないリアクションに不満足な様子の功弥。
「お前って本当つまんねー。俺部活行くわ。じゃな」
「うん」
くだらない。
私はそんな事じゃ驚かない。
「・・・売春、」
驚かない。
ただ
あの日の北条夏希の笑顔を思い出すと、何故だか裏切られたような気分になった。
初めて近くで見た北条夏希は本当に綺麗だった。
勝手にキレイなイメージを作りすぎていたのかもしれない。
裏切られた気分って。
そもそも私は北条夏希に何を期待してたんだよ。
【売春】という言葉が頭の中をぐるぐる回ってた。
だとしたら。
今日もどこかで北条夏希は・・・。
開けっ放しの窓からカラスの声が聞こえてくる。
夕日が教室をオレンジに染めている。
「あ、もう5時。帰ろ」
北条夏希の事を考えるのは、もうやめよう。
そう思った。

