私は実希(みき)。
高校3年生になった。
今日は初登校日だ。
クラス替えも済み、顔知れた面子がちらほらと散らばる教室。
クラス替えの前のわくわくは、何の役割も果たさず既に消えてた。
クラス替えってこんなもんだ。
一限のチャイムが鳴る前。
私は早めに席に着いていた。
嬉しいことに席は一番後ろの角だ。
窓際なので校庭がよく見渡せる。
「おはよう」
突然隣の席から話しかけられた。
いつもなら、誰の声か分からなくても反射神経でおはようって返す。
でも今日は違う。
反射神経より先に声の主の顔が見えた。
「・・・おはよう」
自分でも分かった。
気持ちに言葉がついてきてない、不自然すぎるおはよう。
焦った。
話しかけてきた彼女は、まだ一度も同じクラスになったことのない北条夏希(なつき)
。
彼女は美人で有名だった。
「担任、カガミになったね。」
彼女は笑った。
私は緊張していた。人見知りなのだ。
まだ彼女の言葉が脳に伝達してこない。
あ、返事、返事しなきゃ。
あれ。今この子なんて言ったっけ?
彼女は私の返事を待ってるんだろうか。
目が合ったまま。
ほんの少しの沈黙を残し
彼女は自然な流れで、私から前の黒板に視線を流した。
私は安心したんだろうか、自分の呼吸が止まっていたことに気付いた。
「・・・ああ、カガミなんだ。最悪だね。」
やっと伝達してきた。
「うん、カガミなんだよ」
彼女がまたこっちを見て笑った。
カガミは、なんとも柄の悪い男の学年主任だ。
評判が悪い為、このクラスにならなかった事を他のクラスのやつらは心から歓喜していることだろう。
「ねえ」
北条夏希がまた話しかけてきた。
「はい」
合っていなかったピントをまた北条夏希に定めた。
「はいって何?うけるんだけどっ」
北条夏希がまた笑った。
今度は微笑みではなく、けらけらと。
「ああ、・・ごめん・・・」
完全に北条夏希のペースに飲まれてる。
「ねえ、今日から隣の席だから。よろしくね!」
北条夏希はそれだけ言うと席を立ち、スクールバッグを肩にかけた。
「うん・・・・・。もう、帰るの?」
「うん!バイト!また明日ね!」
「え」
北条美紀は覇気のある声と爽やかな笑顔だけ振りまいて教室を去る。
一限目開始のチャイムが響いた。
同時に教室のドアが開き、見たくもないカガミのお出まし。
北条夏希の香水の残り香。
甘ったるい香りが漂ってた。
頭が真っ白だ。
あいつ何しに学校来たんだよ。

