晩御飯になり、院長が呼びに行く。
実加は言われた通り、リビングに出て行くが一向に手を付ける様子がない。
どこか痛みがあるようにも見えない。





院長と斉藤先生が食事を終えると、院長は実加のお茶碗に盛り付けられた御飯をおにぎりにして実加に渡し、部屋に持って行くように言った。
実加は院長の言うように、部屋へおにぎりを持っていった。




お風呂に入るように言われ、実加は風呂へ行き、すぐに出てきた。
そう、湯船に浸かること自体、孤児院ではほとんどなく、体を洗っただけで出てきたので入って数分でリビングに現れた。




はやっ!俺より早いぞ。
まぁ、孤児院にいたら、風呂に入ることすら知らないだろう。
喘息もあるから、風邪引かない程度で、おまり風呂には入らないのが一番だけどな。






院長が実加を呼び止める。
実加は立ち止まり、うつむいたまま。 






「実加ちゃん、明日は隣のクリニックへ行くからね。
夜、体調が良くなかったら、いつでも起こしてくれていいから。」





実加は黙ったままコクりと頭を下げる。
院長はあえて喘息の発作とは言わない。
喘息があると聞いてはいるけど、実加自身が喘息であることをどう思っているのかわからないから。
本人が病気を受け入れていない限りは、周りは病気を前提で話してはならない。
だから、院長は「体調が良くなかったら」と言ったのである。














その夜、実加はベッドに入らず、部屋の隅に座っていた。
始めての場所で、一人でいるなんて、今までに一度もない。どこにいていいのかわからない。
落ち着かない。どこにいても実加は落ち着かなかった。