ドクター


「先生、またあの場所に行けるかな・・・・・・・・・。」




等々力先生におばれながら、実加は部屋に入る前に呟いた。






「そうだね、もっともっと体調が良くなったら、僕が連れてってあげるから。
今は我慢しよう。」





そう言われ、さらに落ち込む実加。






等々力先生がベッドに実加を下ろすと、実加はため息をついた。






「今日のことは、今から青木先生に言いに行くから、逃げずにベッドにいるんだよ。」





等々力先生にそういわれても、実加はボーっとしていた。
この数日間、通いつづけた日々が嘘のようだった。





青木先生に知られたら、どれだけ怒られるだろう。
そう考えたのか、実加は部屋から出て廊下を歩きはじめた。






すると実加の行く方向には、青木先生と等々力先生がこちらに歩いて来ていた。
実加は歩きをとめた。





青木先生と等々力先生がそれに気づいた瞬間、実加は回れ右をして、力強く地面を蹴っていた。





それと同時に、





「走るな!」






どちらが叫んだのか、実加にはわからない。
無我夢中で地面を蹴り続けたけど、まるで夢の中にいるかのように、思う程進まない。
体力が落ちているのだろう。
数メートルで、息が上がっていた。








「ひぃひぃひぃ、、、、、はぁはぁはぁ」






廊下に手をつけて高鳴る心臓を押さえて、呼吸を整えようとする。





「はぁはぁはぁ、、、ゲホゲホゲホッ・・。」







うまくいかない。
普段しているような落ち着いた呼吸がどうも出来ない。
地面にポタポタと滴る涙で前がうまく見えない。






誰かに背中をさすられてるけど、実加はそれどころじゃない。






「落ち着いて、ゆっくり大きく息を吸うよ。」






青木先生の声と分かるけど、言ってる意味が分からなくなるほど、息が上がっていた。
実加は喘息と診断されていたものの、頻繁に発作が起きてる訳ではないので、どうしたらいいのか分からず、パニックに陥っていた。





「ハァハァハァ、ゲホゲホゲホッ!







ゲホゲホゲホ、ゲホゲホゲホ」







口にマスクを当てられるけど、頭をふりすぐにマスクを外す。
抑え付けられているけど、体は必死に抵抗している。
咳をしながらももがいている。





しばらくして、体力が限界になったのか、咳込みながらもグッタリとし始めた。
そのタイミングで、廊下で倒れている実加をストレッチャーに乗せ、マスクを着けて、手早く処置をする青木先生と等々力先生。そして駆けつけた看護師たち。
実加は急いで処置室へと運ばれた。