実加を部屋に案内して、院長が実加の荷物を部屋に置く。
荷物と言っても、小さなビニール袋に下着と着替えが数枚入っているだけだ。
院長は荷物の中身を確認すると、実加にこう言った。




「おじさんの家にはね、このお兄さんと男二人だけなんだ。
でもね、隣のおうちに優しいお姉ちゃんがいてね、そのお姉さんが午後から来るから、一緒に買い物に行ってくるといいよ。
お金のことは心配いらないからね。何か困ったこと、必要なものがあったら、おじさんでもこのお兄さんでも、もしくは隣のおうちのお姉さんに、遠慮なく言ってくれたらいいからね。」




と優しく言うものの、実加は院長を睨んだ後、再びうつむいた。
何も困ったこともないし、必要なこともない、とでも言いたいように。




「それから、この部屋は実加ちゃん一人の部屋だ。机やタンスも置いてある。好きなように使いなさい。
食事はリビングに来て、三人で食べることがこの家のルールになっている。どんなに忙しくても、おじさんとお兄さんはそうしてきた。
わかったかな。」




と実加の顔を見て言うが、答えない。




「このお兄さんはね、斉藤実って言うんだよ。お兄さんでも、お兄ちゃんでも何でもいい。
いきなりお兄さんやお兄ちゃんはいいづらいかな。実くんでも何でもいいよ。
隣が病院なんだけど、病院にくるおばあさんたちは斉藤先生や実先生って呼んでるから、その方がいいかな。まぁ、好きに呼べばいいから。」




好きに呼べばいいって・・・。俺に許可もなく。
ていうより、さっきから全く返事をしない子だ。本当に大人を信じてないんだろう。
これからどうなることやら。