ドクター


検査室。
検査時間となり、何人もの患者が検査にやってきた。
その中に、看護師に車椅子を押されて来た実加を斉藤先生は確認した。






看護師の三池りさが、実加の車椅子を押し、斉藤先生のいる診察台へ向かう。
実加は顔を上げると、どこか表情が明るく見える。
知っている医師であることにホッとしたのだろう。






「お、来たなぁ。


今日はこの前やった検査に加えて、違うこともするからな。」






実加は驚いて目を見開いた。
斎藤先生は意地悪そうな顔をして、実加を見る。






「じゃあ、採血から。



三池さん、ど太い注射針を用意して。」





実加の顔が引きつる。
看護師のりさが笑いをこらえる。
実加はりさに気づき顔をあげると、騙されたことに気づいたのか、斎藤先生を睨んでいる。




「悪りぃ悪りぃ、冗談だよっ」





笑いながら話す。




「ひどぃ…………………」





実加がポツリと言う。





「そんな真に受けるなよ。
じゃあ、ど太い注射針。」




「っもぅっ!」





実加が斉藤先生に突っ込む。






「ハハハ!
楽しいな。」






「斉藤先生っ、実加ちゃんが可哀相ですよっ。」






と少し笑いながら言うりさ。






「.......み、三池さんまでっ!」






りさは初めて実加に名前で呼ばれ、驚いている。






「三池さんだなんてっ、下の名前でいいわよっ。」






微笑みながら言う。







「じゃあ、







りさ!」





「先生じゃありません!」






斉藤先生がりさに冗談を飛ばす。





「くくっ.......。」






実加がお腹を抱えて笑う。
そんな実加を嬉しそうに見るりさと斉藤先生。





検査が無事に終わるころ、斉藤先生がりさに声をかける。





「三池さん、あとでナースステーションに行きます。その時、ちょっといいですか?」





「あ、はい。わかりました。」






りさは不思議そうな顔で答えた。
斉藤先生が実加を見ると、





「熱はしっかり引いたか?
風邪が流行ってるから、これからも気をつけろよ。
抜け出すなよ~。





あの頑丈な院長でさえも、風邪引いて寝込んでるんだからなぁ。」  




と最後は独り言のように喋る。
実加は車椅子に座ったまま顔を上げた。
その反応にりさと斉藤先生は気づくことなく、りさは車椅子を押して検査室を後にした。