ドクター


クリニックから飛び出した実加は、どこへ行くのか分からないまま走り続けた。
孤児院からクリニックまで車で来たから、ここら辺は全く土地勘がない。
遠くで斎藤先生の声が聞こえるが、実加は振り向かなかった。





哀しかった。
だれも実加を信じてくれない。
まだ孤児院からやってきて数日。
それでも一緒に生活してきた仲なのに。






自分が息をしているのかも分からない。
体がガクガクと震え始めた。



「ハァハァハァハァハァ」




息も苦しくなってきた。
実加は近くにあるタコ公園に入った。
タコ公園のタコの形をした遊具の中で座り込んだ。
膝の震えが止まらない。
肩は大きく上下に動いて、体に酸素を取り込もうとする。





「ゲホゲホゲホゲホゲホ」






息を吸う度に咳が止まらない。
それでも酸素が欲しくて息を吸うけど、疲れて呼吸が荒くなる。
その度に咳が出る。
実加は近くの水溜まりに手をつくことなく、顔から倒れ込んだ。
それでもひどく咳が出て、うまく呼吸ができない。
実加の意識は遠のいていた。