家からつながるクリニックの扉を実加が恐る恐る開けてみる。
診察室から家につながる扉が少し開く。
斎藤先生は一人の患者さんが診察室から出ていくのを見送って振り返ると、扉が開くのを確認した。
ん?
見ていると少しずつ開く。
そこから顔を出したのは実加。
実加と斎藤先生の目が合うと、実加は慌てて戻って行こうとする。
「待って。」
斎藤先生が実加を引き止める。
診察室に入ってくるように言う。
「どうした?調子でも悪いか?」
「・・・大丈夫です。
一人でやることがなくて、、、その。」
「あぁ、分かった。
もう終わるから、待合室にいて。」
と斎藤先生が実加に言う。
実加は診察室を通って待合室に向かった。
待合室には3人のお年寄りがいた。
診察室から出てきた私を見て、不思議そうな顔をする。
それはそうだ。
待合室にいなかったのに診察室から出てきたのだから。
実加は空いている椅子に座った。
3人のうち2人のお年寄りは帰った。
そして最後の一人が診察室へ。
実加は一人になった待合室を眺めた。
診察室から流れてくるほのかな消毒の匂いが、鼻の奥を突く。
待合室は畳のあるスペースと椅子が並んでいるところとあり、一見クリニックには見えず、どこか人が集まりたくなるような雰囲気がある。
ふと先ほど診察室に入っていったお年寄りが座っていた椅子に、鞄が置かれていた。
きっとさっきのお年寄りの物だろう。
実加は深く考えずにその場にいた。
数分がして、お年寄りが診察室から出てきた。
そして、そのお年寄りが鞄を置いていたことに気づく。
さらに鞄の中を確認しては、実加の顔を見ている。
何か捜してるのだろうか。
するとお年寄りが、会計窓口に行き、実加の方を見ながら何か窓口にいる看護師に話す。
お年寄りは実加に近づく。
「やいっ!お前!
わしがここに忘れていった鞄から、わしの財布を盗っただろ?」
突然、お年寄りが実加を疑いだした。
お年寄りはさっき、鞄の中から財布を捜していたようだ。
そして実加に怒鳴りちらしている。
その騒ぎを聞いた斎藤先生と院長が、待合室に出てくる。
そして、斎藤先生がお年寄りに何があったのか尋ねる。
「このっ!この子が!わしの財布を、この鞄からっ!
盗んだんだ!」
「カミさん、財布はここに持ってきたんですか?」
斎藤先生がカミさんと言われるお年寄りに尋ねると、カミさんは
「そうだ、持ってきた!
こいつだ!
こいつが盗ってたんだっ!」
あまりにも強気でいうカミさんを見て、斎藤先生と院長は実加を見る。
二人の顔は困った顔をしている。
「実加ちゃん、どうなんだろう?」
院長が優しく言う。
「ずっと・・・ここに居ました。」
「ほれっ!言わんこっちゃない!早くわしの財布を返せ!」
とカミさんが叫ぶ。
院長と斎藤先生が実加に近づくと、実加は不安な顔をさせて立ち上がった。
院長と斎藤先生が、自分を信じてくれてないと思い、少しずつ後ずさりをする。
「実加ちゃん、少しお話しよう。」
という院長に、実加は振り返って、クリニックを逃げるように出て行った。



